第9章 労働関係の展開に関する法規整
企業と教育訓練
企業における教育訓練は、労働力の質を高めるためだけでなく、働く人の能力開発や中長期的なキャリア形成にとって重要である。特に、労働者を長期的に雇用し、育成・活用する長期雇用システムにおいては、幅広い教育訓練が必要となる。
企業における教育訓練は、「OJT(On the Job Training)」と「Off-JT(Off the Job Training)」とに大別される。
OJTは、適格な指導者の指導の下(常時指導者がつく体制の下)、労働者に仕事をさせながら行う職業訓練である。
Off-JTは、業務命令に基づき、通常の業務を離れて行う職業訓練(研修)である。
教育訓練を命ずる権利
企業が行う教育訓練のうち、OJTは、業務遂行と不可分になされる以上、労働者の労働義務(使用者の指揮命令権)の範囲の問題である。また、使用者は労働者に対する様々な業務過程外研修(Off-JT)を業務命令によって実施するが、このような教育訓練を実施する権限は、使用者が労働契約によって取得する労働力の利用権から派生すると考えられている。
しかしながら、企業はいかなる内容の教育訓練をも実施できるわけではない。
たとえば、①内容が業務遂行と関係のないもの(一般教養・文化・趣味の教育・思想信条教育)、②態様・方法・期間が相当でないもの(過度の精神的・肉体的苦痛を伴うもの)、③法令に抵触するもの(半組合教育や違法な長時間労働になる場合等)などは、労働契約上の限界をこえ、または法令に反し、命令することができない。
その他、④その内容や実施場所などが労働契約上予定されていないと認められるもの(新規の海外留学など)は、労働者の同意を得てのみ実施できることとなる。
教育訓練を受ける権利
労働者が一定の業務外研修(Off-JT)を受ける(請求する)権利を有するかについては、労働協約や就業規則などで一定の教育訓練が明確に制度化されている場合には、権利ありと解釈できる場合がある。
これに対し、制度化されておらず、使用者の裁量によって命じられている場合には教育訓練を請求する権利は認めがたいとされている。
なお、教育訓練の実施について、性による差別が行われた場合には男女雇用機会均等法(6条)違反となり、通常労働者と同視すべきパートタイム労働者を差別した場合にはパートタイム労働法(9条)違反となる。
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