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労働法務士認定試験 サンプル問題

サンプル問題は随時更新していく予定です。

問題1.
使用者及び労働者に関する以下のアからエまでの記述のうち、最も適切ではないものを1つ選びなさい。
ア.労働契約法の適用を受ける「労働者」とは、使用者に使用されていること、賃金を支払われていることという要件を満たす者である。
イ.労働組合法上の「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。
ウ.労働基準法は、その適用対象である「使用者」を「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」と定義している。
エ.労働安全衛生法上の「事業者」は、労働基準法の義務主体である「使用者」の概念と同じである。

解答:エ 使用者及び労働者

ア 正しい。労働契約法の適用を受ける「労働者」とは、使用者に使用されていること、賃金を支払われていることという要件を満たす者である(労働契約法2条1項)。
イ 正しい。労働組合法上の「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう(労働組合法3条)。
ウ 正しい。労働基準法は、その適用対象である「使用者」を「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」と定義している(労働基準法10条)。
エ 誤 り。労働安全衛生法上の「事業者」とは、事業を行う者で、労働者を使用するものをいい(労働安全衛生法2条3号)、法人企業であれば当該法人、個人企業であれば事業経営主を指す。 労働基準法の義務主体である「使用者」と異なり、事業経営の利益の帰属主体そのものを義務主体としてとらえ、その安全衛生上の責任を明確にしたものである(昭47. 9.18発基91号)。

問題2.
労働契約法における労働契約の成立と原則に関する以下のアからオまでの記述のうち、最も適切ではないものを1つ選びなさい。
ア.労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
イ.労働契約の成立要件を満たすためには、使用者は労働者に対し、当該契約の内容を書面で交付しなければならない。
ウ.労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものでなければならない。
エ.労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものでなければならない。
オ.労働契約法上、労働者及び使用者の行き過ぎた権限行使を抑制するため、権利濫用禁止の原則が規定されている。

解答:イ 労働契約の成立と原則

ア 正しい。労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する(労働契約法6条)。
イ 誤 り。労働契約における「合意」(労働契約法6条)については、契約書の作成などの要式は必要とされておらず、口頭によるものでもよいとされている(同法4条2項も参照)。従って、労働契約書の書面による交付は、労働契約の成立要件ではない。
ウ 正しい。労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものでなければならない(労働契約法3条2項)。
エ 正しい。労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものでなければならない(労働契約法3条3項)。
オ 正しい。労働契約法上、労働者及び使用者の行き過ぎた権限行使を抑制するため、権利濫用禁止の原則が規定されている(労働契約法3条5項)。

問題3.
就業規則に関する以下のアからオまでの記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
ア.常時10人以上の労働者を使用する使用者は、一定事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならないが、「10人以上」とは、企業単位で計算される。
イ.「常時10人以上の労働者を使用する」とは、1年のうち一定期間に雇用する労働者の数が10人以上になるという意味であり、通常は3人であっても、繁忙期において10人以上になる場合は、これに含まれる。
ウ.就業規則の作成・変更について、使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を得なければならない。
エ.使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させる義務を負うが、常時10人未満の労働者を使用する使用者には、就業規則の周知義務はない。
オ.就業規則の作成・届出義務の違反は、30万円以下の罰金に処せられる。

解答:オ 就業規則

ア 誤 り。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、一定の事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない(労働基準法89条、則49条1項)が、「10人以上」とは、企業単位ではなく、事業場単位で計算される。
イ 誤 り。「常時10人以上の労働者を使用する」とは、常態として10人以上を使用していることを意味する。繁忙期のみ10人以上を使用するというのはこれに該当しない。
ウ 誤 り。使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない(労働基準法90条1項)。つまり、同意までは求めていない。
エ 誤 り。常時10人未満の労働者を使用する使用者は、就業規則の作成・届出義務を負わない。しかし、周知義務は法令の周知義務と同様の趣旨であるから、常時10人未満の労働者を使用する使用者であっても、就業規則を作成した場合には、周知義務を負う(労働基準法106条1項)。
オ 正しい。就業規則の作成・届出義務の違反は、30万円以下の罰金に処せられる(労働基準法120条1号)。

問題4.
労働基準法15条(労働条件の明示)の規定に基づき、労働契約の締結に際し、使用者が労働者に対して、書面の交付により明示しなければならないこととされている次のaからeまでの事項のうち、適切ではないものの組合せを以下のアからオまでのうち1つ選びなさい。
a.賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項
b.安全及び衛生に関する事項、災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
c.始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、所定労働時間を超える労働の有無並びに所定労働日以外の日の労働の有無に関する事項
d.労働契約の期間に関する事項、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
e.使用者は、期間の定めのある労働契約であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の際に、労働者に対して、期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  • ア.aとb
  • イ.bとc
  • ウ.cとd
  • エ.dとe
  • オ.aとe

解答:イ 労働条件の書面の交付による明示義務

a 正しい。賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項は、使用者が、労働契約の締結に際し、労働者に対して書面の交付によって明示しなければならない事項に含まれている(労働基準法15条1項、則5条1項3号・2項・3項)
b 誤 り。安全及び衛生に関する事項(労働基準法施行規則5条1項7号)、災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項(同項9号)は、書面の交付によって明示しなければならない事項に含まれていない(労働基準法15条1項、則5条2項・3項)。
c 誤 り。始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、所定労働時間を超える労働の有無に関する事項(労働基準法施行規則5条1項2号)は、使用者が、労働契約の締結に際し、労働者に対して書面の交付によって明示しなければならない事項に含まれている(労働基準法15条1項、則5条2項・3項)が、所定労働日以外の日の労働の有無に関する事項は、書面の交付によって明示しなければならない事項に含まれていない。
d 正しい。労働契約の期間に関する事項(労働基準法施行規則5条1項1号)、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(同項1号の3)は、使用者が、労働契約の締結に際し、労働者に対して書面の交付によって明示しなければならない事項に含まれている(労働基準法15条1項、則5条2項・3項)。
e 正しい。使用者は、期間の定めのある労働契約であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の際に、労働者に対して、期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(労働基準法施行規則5条1号の2)を、書面の交付により明示しなければならない (労働基準法15条1項、則5条2項・3項)。

問題5.
解雇の予告に関する以下のアからオまでの記述のうち、最も適切ではないものを1つ選びなさい。
ア.民法は、期間の定めのない労働契約における使用者及び労働者の解約予告期間は2週間で足りると規定しているが、労働基準法は、使用者のなす解雇につき予告期間を30日間置くことまたは平均賃金30日分の予告手当を支払うことを義務づけている。
イ.労働基準法において、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合または労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合は、解雇の予告または予告手当の支払を要しない。
ウ.判例は、解雇予告の期間を置かず、予告手当の支払もしないでなされた解雇の通知は、即時解雇としては効力を生じないが、通知後30日の期間を経過するか、通知の後に予告手当を支払ったときは、解雇の効力が生じると解されている。
エ.労働基準法における解雇予告の義務規定は、使用期間中の者(雇入れ日から14日以内の者)については適用しないが、14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は適用される。
オ.使用者が労働基準法で定める解雇予告手当を支払わなかった場合、裁判所は、使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができるが、付加金の支払い義務について、判例は、労働者の請求によって初めて発生するものではなく、使用者が予告手当等を支払わなかった場合に、当然発生すべきものと解されている。

解答:オ 解雇の予告

ア 正しい。民法は、期間の定めのない労働契約における使用者及び労働者の解約予告期間は2週間で足りると規定している(同法627条1項)が、労働基準法は、使用者のなす解雇につき、予告期間を30日間置くことまたは平均賃金30日分の予告手当を支払うこと(同法20条)を義務づけている。
イ 正しい。天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合または労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、解雇の予告または予告手当の支払を要しない(労働基準法20条)。
ウ 正しい。判例は、「使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知后同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであって、本件解雇の通知は30日の期間経過と共に解雇の効力を生じたものとする原判決の判断は正当である。」としている(細谷服装事件、最判昭35.3.11)。
エ 正しい。解雇予告義務の規定は、使用期間中の者(雇入れ日から14日以内の者)については適用しないが、14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は適用される(労働基準法21条4号)。
オ 誤 り。使用者が解雇予告手当を支払わなかった場合、裁判所は、労働者の請求により、それらの規定に従って使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる(労働基準法114条)が、付加金の支払義務について、判例は、使用者が予告手当等を支払わなかった場合に、当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその支払を命ずることによって、初めて発生するものと解すべきであるとしている(細谷服装事件、最判昭35.3.11)。

問題6.
有期労働契約から無期労働契約への転換申込権の要件と行使に関する以下のアからエまでの記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
ア.労働契約法18条1項により、通算契約期間が5年を超える有期労働契約下にある労働者は、その一方的意思表示により無期労働契約への転換を成就する転換申込権を有している。
イ.同一事業主の複数の異なる事業場において有期労働契約を順次締結してきた場合、両者を通算して5年を超えているときでも、事業場が異なっていることから、労働契約法18条1項は適用されない。
ウ.5年超の有期労働契約が当該労働者による無期転換権の行使によって無期労働契約に転換する場合の労働条件については、別段の定めがある場合であっても、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件と同一のものとする。
エ.有期労働契約の無期転換について、就業規則上の整備が何もされていない場合であっても、無期転換後、有期労働契約中の労働条件はそのまま承継されない。

解答:ア 転換申込権

ア 正しい。労働契約法18条1項は、「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において『通算契約期間』という。)が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」と規定している。ここから、通算契約期間が5年を超える有期労働契約下にある労働者は、その一方的意思表示により無期労働契約への転換を成就する転換申込権を有していると解されることになる。
イ 誤 り。「同一の使用者」にあたるどうかは事業場単位ではなく、事業主単位で判定される。よって、同一事業主の複数の異なる事業場において有期労働契約を時間的に順次締結してきた場合、「同一の使用者」との間で締結された二以上の有期労働契約といえる。したがって、同一事業主の複数の異なる事業場において有期労働契約を順次締結してきた場合、両者を通算して5年を超えているときには、労働契約法18条1項が適用される。
ウ 誤 り。労働契約法18条1項後段は、「この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。」と規定する。この「別段の定め」とは、より有利に変更する定めと、より不利に変更する定めの双方を予定している。
エ 誤 り。有期労働契約の無期転換について、就業規則上の整備が何もされていない場合には、無期転換後の労働条件は、期間の定めを除くほか、有期労働契約中の労働条件がそのまま承継される。承継される労働条件としては、従前の賃金、労働時間、休日・休暇、服務規律、福利厚生などが挙げられる。

問題7.
労働基準法における賃金に関する以下のアからオまでの記述のうち、最も適切ではないものを1つ選びなさい。
ア.労働基準法上、賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうとされているが、実費弁償として支払われる旅費は、賃金に含まれない。
イ.労働者が5分間遅刻した場合に、30分間遅刻したものとして賃金をカットする処理は、労務の提供のなかった限度を超えるカットについてこのような取扱いを就業規則に減給の制裁として定めている場合は、賃金の全額払の原則に反しない。
ウ.年俸制を採用している場合においても、毎月1回以上一定期日払の原則は適用されるが、必ずしも毎月に年棒を12か月で均等した月平均額を支払う必要はなく、年俸の一部を賞与として支給することもできる。
エ.労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件が明確である場合の退職手当は、労働基準法上の賃金であり、同法24条2項の臨時の賃金等に当たる。
オ.労働者が、賃金を自身の損害賠償債務の支払いのために第三者に譲渡し、その旨を使用者に通知した場合、使用者は第三者にその賃金を支払うことができる。

解答:オ 賃金

ア.正しい。労働基準法上、賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうとされているが、実費弁償として支払われる旅費は、賃金に含まれない(労働基準法11条、昭26.12.27 基収6126号)。
イ.正しい。労働者が5分間遅刻した場合に、30分間遅刻したものとして賃金をカットする処理は、労働基準法第24条の賃金の全額払の原則に反し違法であるが、労務の提供のなかった限度を超えるカット(25分間についてのカット)についてこのような取扱いを就業規則の減給の制裁として定めて同法91条の制限内で行う場合には、同法第24条の賃金の全額払の原則に反しない(労働基準法24条1項、昭63.3.14 基発150号)。
ウ.正しい。年俸制を採用している場合においても、毎月1回以上一定期日払の原則は適用されるが、必ずしも毎月に年棒を12か月で均等した月平均額を支払う必要はなく、年俸の一部を賞与として支給することもできる。(労働基準法24条2項)
エ.正しい。労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件が明確である場合の退職手当は、労働基準法11条の賃金であり、同法24条2項の臨時の賃金等に当たる」とされている。(昭22.9.13 発基17号)
オ.誤 り。賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。よって、労働者が、賃金を自身の損害賠償債務の支払のために第三者に譲渡し、その旨が使用者に通知された場合であっても、使用者は第三者にその賃金を支払うことはできない(労働基準法24条1項)。

問題8.
年次有給休暇に関する以下のアからオまでの記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
ア.使用者は、その雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならないが、判例は、全労働日には一般休暇日も含まれるとしている。
イ.使用者は、1年6か月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して6か月を超えて継続勤務する日から起算した継続勤務年数1年ごとに1労働日を10労働日に加算して有給休暇を与えなければならないので、4年6か月以上継続勤務した労働者の年次有給休暇の付与日数は14日である。
ウ.判例は、勤務割による勤務体制がとられている事業場において、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかった場合、使用者が代替勤務者を確保するための何らかの具体的行為をしなかったときには、使用者がなした時季変更権の行使は違法であるとしている。
エ.判例は、労働者が、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を経ることなく、始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、時季変更権の行使において、休暇の時期、期間の修正、変更に関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ないとしている。
オ.年次有給休暇権の発生要件の1つである「継続勤務」は、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものと解されるため、この継続勤務期間の算定に当たっては、転籍型の出向をした場合や、休職とされていた者が復職した場合についても勤務年数を通算しなければならない。

解答:エ 年次有給休暇

ア 誤 り。判例は、「労働基準法39条1項にいう全労働日とは、1年の総暦日数のうち労働者が労働契約上労働義務を課せられている日数をいうものと解すべきである。(中略)一般休暇日は労働者が労働義務を課せられていない日に当るから、新就業規則中一般休暇日が全労働日に含まれるものとして年次有給休暇権の成立要件を定めている部分は労働基準法39条1項に違反し無効である」としている(エス・ウント・エー事件 最判平4.2.18)。
イ 誤 り。使用者は、年次有給休暇は雇入れの日から起算して、6か月間継続勤務し、その6か月間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続または分割した10日の有給休暇を与えなければならない(労働基準法39条1項)が、4年6か月以上継続勤務した労働者の年次有給休暇の付与日数は16日である(同条2項)。
ウ 誤 り。判例は、勤務割における勤務予定日につき年次有給休暇の時季指定がされた場合に、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかったと判断できるときには、使用者において代替勤務者を確保するための配慮をしたとみる何らかの具体的行為をしなかったとしても、時季変更権の行使が違法となることはないとしている(電電公社関東電気通信局事件 最判平元.7.4)。
エ 正しい。判例は、労働者が、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を経ることなく、始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、時季変更権の行使において、休暇の時期、期間の修正、変更に関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ないとしている(時事通信社事件 最判平4.6.23)。
オ 誤 り。年次有給休暇権の発生要件の1つである「継続勤務」は、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものと解されるため、この継続勤務期間の算定に当たっては、在籍型の出向をした場合や、休職とされていた者が復職した場合についても勤務年数を通算しなければならない(労働基準法39条1項、昭63.3.14 基発150号)。転籍出向の場合は、勤務年数を通算することができない。

問題9.
労働安全衛生法における安全衛生管理体制に関する以下のアからオまでの記述のうち、最も適切ではないものを1つ選びなさい。
ア.事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働大臣が定める安全衛生管理者試験に合格した者の中から総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者等の指揮をさせるとともに、労働者の危険または健康障害を防止するための措置等を統括管理させなければならない。
イ.事業者は、法定の業種について、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、厚生労働大臣が定める安全管理者選任時研修を受講した者などの有資格者の中から安全管理者を選任し、その者に安全衛生業務のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない。
ウ.常時50人以上の労働者を使用する事業者は、衛生管理者免許等の免許保有者の中から衛生管理者を選任し、その者に安全衛生業務のうち、衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。
エ.安全委員会は、労働者の危険の防止に関する重要事項を調査審議する委員会であるが、安全委員会を設けなければならない事業場においては、衛生委員会も設けなければならない。
オ.常時50人以上の労働者を使用する事業場において、事業者は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者の中から産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならない。

解答:ア 安全衛生管理体制

ア.誤 り。事業者は、政令で定める規模(建設業・運送業等は100人以上、製造業等は300人以上、その他の業種は1000人以上)の事業場ごとに、「総括安全衛生管理者」を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者等の指揮をさせるとともに、労働者の危険または健康障害を防止するための措置等(労働安全衛生法10条各号に定める措置等)を統括管理させなければならない(労働安全衛生法10条1項、令2条)。総括安全衛生管理者は、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者をもって充てなければならないと規定されているが、資格については、特段の定めが無い(同条2項)。
イ 正しい。事業者は、法定の業種について、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、厚生労働大臣が定める安全管理者選任時研修を受講した者等の有資格者の中から安全管理者を選任し、その者に安全衛生業務のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない(労働安全衛生法11条1項、令3条)。
ウ 正しい。常時50人以上の労働者を使用する事業者は、衛生管理者免許などの免許等保有者の中から衛生管理者を選任し、その者に安全衛生業務のうち、衛生に係る技術的事項を管理させなければならない(労働安全衛生法12 条1項、令4条)。
エ.正しい。安全委員会を設けるべき事業場は、業種の区分に応じ、常時50人以上、又は、常時100人以上の労働者を使用する事業場である。 他方、衛生委員会を設けるべき事業場は、業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場である。したがって、安全委員会を設けなければならない事業場においては、必然的に、衛生委員会を設けなければならないこととなる(労働安全衛生施行令8条・9条)。
オ 正しい。常時50人以上の労働者を使用する事業場において、事業者は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者の中から産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならない(労働安全衛生法13 条1項・2項、令5条)。

問題10.
雇用保険法の求職者給付における基本手当に関する以下のアからエまでの記述のうち、最も適切ではないものを1つ選びなさい。
ア.被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合には、待期期間の満了後1か月以上3か月以内の間で公共職業安定所長の定める期間は、原則として、基本手当が支給されない。
イ.基本手当は、被保険者が失業した場合において、原則として、離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12か月以上であったときに支給される。
ウ.基本手当は、原則として、離職の日の翌日から起算して1年の期間内の失業している日について、所定給付日数を限度として支給される。
エ.特定受給資格者(会社都合により離職した者など)の場合、基本手当の所定給付日数は、受給資格者の離職日における年齢にかかわらず、算定基礎期間によって定められている。

解答:エ 雇用保険法の求職者給付

ア 正しい。被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合には、待期期間(雇用保険法21条)の満了後1か月以上3か月以内の間で公共職業安定所長の定める期間は、原則として基本手当が支給されない(雇用保険法33条1項)。
イ 正しい。基本手当は、被保険者が失業した場合において、原則として、離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12か月以上であったときに支給される(雇用保険法13条1項)。
ウ 正しい。基本手当は、原則として、離職の日の翌日から起算して1年の期間内の失業している日について、所定給付日数を限度として支給される(雇用保険法20条1項)。
エ 誤 り。特定受給資格者の場合、基本手当の所定給付日数は、受給資格者の離職日における年齢、離職の理由と算定基礎期間によって定められている(雇用保険法23条)。


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