第7章 個別的労働関係法
競業避止義務
労働者は、労働契約の存続中は、一般的には、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務がある。したがって、そのような行為がなされた場合には、就業規則の規定に従った懲戒処分や損害賠償請求がなされうる。
労働者の競業避止義務の存否は、実際上は労働者の退職後、同業他社に就職したり、同業他社を開業したりする場合に、退職金の減額・没収、損害賠償請求、競業行為の差止請求の可否との関連で多く問題となっている。
同業他社に転職した者に対する退職金の減額ないし没収については、退職金規定にその旨の明確な規定が存在することが必要であり、同規定の合理性と当該ケースへの適用の可否が、退職後の競業制限の必要性や範囲(期間、地域など)、競業行為の態様(背信性)等に照らして判断される。
退職後の競業行為の差止めは、退職者の職業選択の自由を直接侵害する措置なので、競業制限の合理的理由が認められ、合理的な範囲(期間・活動、等)内での競業制限特約が存在する場合にのみ、その特約を根拠に行いうる。
損害賠償請求は、前使用者に重大な損害を与える態様でなされた場合(顧客の大掛かりな簒奪、従業員の大量引抜き等)には、上記の特約に基づいて認められるし、前使用者の営業権を侵害する不法行為としても認められうる。