第7章 個別的労働関係法
信義誠実の原則・権利濫用の禁止
労働契約法は、契約関係に共通な民法上の基本原則を2つ労働契約について規定した。
① 信義誠実の原則
「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」(3条4項)。
この原則は、就業規則の合理的解釈の根拠となる点で大きな実際的意義がある。
② 権利濫用禁止の原則
「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない(3条5項)。
使用者が優越的な立場で指揮命令権、業務命令権、人事権、懲戒権、解雇権などを行使する労働関係においては、権限行使の行き過ぎを抑制する法理として権利濫用法理が発達した。労働契約法では、それらのうち出向命令権、懲戒権、解雇権の濫用法理について、それぞれ特別に規定したが(14条・15条・16条)、配転命令権、指揮命令権、業務命令権、人事考課権などについては別途の規定をしていない。3条5項は、それら特別規定化されていない権利の濫用を抑制する一般規定となる。